先日、側彎症の女子高生がお父さんとやってきました。
「前回私が歩き方を教わり、とても腑に落ちました。だから、今回は娘に歩き方を教えてあげてほしい」という依頼でした。
症状の進行を防ぐため、鎧のように頑丈なコルセットを装着していました。
側彎症状 は、40〜50人に1人の子どもにみられる身近な疾患です。
【側彎症とは】
側彎症とは、本来まっすぐであるはずの背骨が左右に弯曲し、それに加えて椎骨がねじれる(回旋する)ことで、身体全体のバランスが崩れてしまう疾患です。
レントゲンで測定するCobb角が10°以上の場合に側彎症と診断されます。
原因によっていくつかに分類されますが、最も多いのは**思春期特発性側彎症(Adolescent Idiopathic Scoliosis:AIS)**で、全体の約80〜90%を占めます。「特発性」とは、現在の医学でも明確な原因が分かっていないことを意味します。
発症は10〜16歳頃の成長期に多く、特に女子は男子より進行しやすいことが知られています。その理由として、急激な身長の伸びやホルモン、遺伝的要因などが関係すると考えられています。
初期には痛みを伴わないことが多いため、本人も家族も気付きにくく、
- 肩の高さが違う
- 肩甲骨の出っ張りに左右差がある
- ウエストラインが左右で違う
- 前屈すると背中が盛り上がる
といった見た目の変化から発見されるケースが少なくありません。
側彎症は単に「姿勢が悪い」という問題ではなく、進行すると身体のバランスが大きく崩れ、成人後には腰痛や肩こり、疲労感の原因となることがあります。また、重度になると胸郭が変形し、呼吸機能へ影響することも報告されています。
【一般的な治療法】
現在、側彎症の治療は年齢・成長の残り具合・Cobb角・進行速度を総合的に判断して選択されます。
一般的には次のような基準で治療方針が決められます。
① 定期的な経過観察
Cobb角がおおむね20〜25°未満で進行のリスクが低い場合は、3〜6か月ごとにレントゲン撮影を行い、側彎の進行を確認します。
この時期は「何もしない」のではなく、進行を見逃さないことが重要になります。
② 装具療法(コルセット)
成長期で20〜40°程度の側彎があり、進行が予想される場合には装具療法が推奨されます。
装具は側彎を完全に治すものではありませんが、多くの研究で成長期における側彎の進行を抑制する効果が示されています。
一方で、十分な効果を得るためには長時間の装着が必要となるため、精神的な負担や学校生活への影響が課題となることもあります。
③ 側彎症に特化した運動療法
近年では、世界的にも**Physiotherapeutic Scoliosis-Specific Exercises(PSSE)**と呼ばれる側彎症に特化した運動療法が推奨されるようになっています。
代表的なものに
- Schroth Method(シュロス法)
- SEAS
- BSPTS
などがあります。
これらは背骨の変形そのものを元に戻すことを目的とするのではなく、姿勢や呼吸、筋肉の使い方を改善し、側彎の進行抑制や身体機能の向上を目指すリハビリテーションです。
【手術療法】
一般的にはCobb角が45〜50°以上となり、今後さらに進行する可能性が高い場合には手術が検討されます。
手術では金属製のロッドやスクリューを用いて背骨を矯正・固定します。
近年は手術技術も大きく進歩していますが、侵襲の大きい治療であるため、慎重な判断が必要になります。
【マロッズのアプローチ】
マロッズでは、病名や症状だけに着目するのではなく、「人が本来どのように身体を使うべきか」という視点を大切にし、一人ひとりに最適な歩き方を指導しています。
歩行が最適化されると、身体に及ぼす良い影響は計り知れません。歩行は全身の筋肉や関節、神経系が連動して働く最も基本的な運動であり、その質が変わることで姿勢や身体の使い方にも大きな変化が生まれます。
また、歩行は左右の手足が交互に協調して動く「相反交互運動」です。日常生活やスポーツで繰り返される偏った身体の使い方によって形成された運動パターンをリセットし、全身のバランスを再構築するうえで、非常に優れた運動療法であると私は考えています。
側彎症では、背骨の弯曲だけでなく、その変形に適応した偏った身体の使い方が定着しやすくなります。その結果、腰や股関節、膝などに過剰な負担がかかり、さまざまな二次的な不調を引き起こすことがあります。
だからこそ、成長期のうちから効率的で無理のない歩行フォームを身につけることには大きな意味があります。歩き方を見直すことは、身体へのストレスを軽減し、二次的な障害の予防や改善につながるだけでなく、長期的な身体機能の維持にも大きく貢献すると考えています。
【歩き方のレクチャー後の変化】
そこで私は、股関節と膝関節が連動して働く歩行フォームを指導しました。
すると、その場で骨盤に自然な回旋運動が生まれ、歩幅は目に見えて大きくなりました。さらに肩甲骨の位置も安定し、歩行時の身体の中心軸のブレにも改善が認められました。
もちろん、これは側彎そのものが改善したということではありません。しかし、身体を効率よく使えるようになることで、背骨や関節、筋肉に加わるストレスを軽減できる可能性は十分にあると考えています。
今後は、整形外科で指示されたコルセットを適切に装着しながら、この歩行フォームを日常生活の中で継続して実践してもらう予定です。
次回お会いする頃には、さらに機能的な変化が現れているのではないか――そんな期待を抱きながら、彼女を送り出しました。
側彎症の治療というと、どうしても「背骨」ばかりに目が向きがちです。しかし私は、それと同じくらい「どう動くか」が重要だと考えています。
身体は、歩き方によって毎日何千歩も形づくられています。だからこそ、一歩一歩の質を高めることが、未来の身体を変える大きな力になると信じています。
