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座力の教科書 Vol.1 / 30         座力とは何か?―人生を支える「座る力」の話

私たちは、一日のうちに何時間も座っています。

仕事をするとき。
食事をするとき。
車を運転するとき。
電車で移動するとき。
テレビを観るとき。

現代人にとって「座る」という行為は、歩くことと同じくらい日常的なものです。

ところが、私たちは歩き方を気にすることはあっても、座り方についてきちんと学ぶ機会がほとんどありません。

「背筋を伸ばしなさい」
「骨盤を立てなさい」
「椅子に深く腰掛けなさい」

そう言われた経験はあっても、どうすれば身体に負担をかけずに座れるのか、その仕組みまで教わった人は少ないのではないでしょうか。

そこで、私が提唱したいのが「座力」という考え方です。

座力とは、自分の身体を安定して支える力

座力とは、単に長時間座り続ける忍耐力ではありません。

また、背筋をピンと伸ばし、良い姿勢を我慢して保つことでもありません。

座力とは、「坐骨で身体を支え、骨盤と背骨の自然な位置を保ちながら、無理なく安定して座り続ける力」のことです。

良い座り方は、外から見た姿勢の美しさだけでは判断できません。

見た目は背筋が伸びていても、腰や背中の筋肉を緊張させ、力ずくで姿勢を固めていれば、やがて疲れて崩れてしまいます。

反対に、身体の構造に合った位置で座ることができれば、必要以上に力を入れなくても、上半身は自然に安定します。

姿勢を「頑張ってつくる」のではなく、身体が「自然に整う場所」に座る。

これが、座力の基本です。

座るときの土台は「坐骨枝=ざこつし」

立っているとき、私たちの身体は両足で支えられています。

では、座っているときは、どこで身体を支えているのでしょうか。

その中心となるのが、骨盤の下にある左右の「坐骨枝=ざこつし」です。

坐骨枝は平らな骨なので、この骨をフラットに座ることができれば、自然と骨盤が立って骨で座ることができるのです。すると、その上にある腰椎も本来の自然なカーブ(反り)を保ちやすくなります。

ところが、椅子の形や座面の高さ、身体の使い方などによって、坐骨枝よりも尾骨側に体重が移ると、骨盤は後ろへ倒れます。

骨盤が後ろへ倒れると、腰は丸まり、頭は前へ移動します。その姿勢を支えるために、腰、背中、首、肩などの筋肉が余計に働かなければなりません。さらには、椎間板や靭帯に持続的な高いストレスがかかります。

座っているだけなのに腰が痛い。
肩や首がこる。
呼吸が浅くなる。
集中力が続かない。

こうした問題の背景には、座っている時間の長さだけでなく、「身体をどこで支えているか」が関係しています。

「座っている」と「座れている」は違う

椅子に腰掛けていれば、誰でも座っているように見えます。

しかし、身体の構造を生かして座れているかどうかは、まったく別の問題です。

筋力や体力が十分にあるうちは、多少崩れた姿勢でも、筋肉の力で補うことができます。

けれども、長時間のデスクワークが続いたり、加齢や運動不足によって身体を支える機能が低下したりすると、それまで隠れていた問題が表面に出てきます。

腰痛や肩こりは、ある日突然始まったように感じるかもしれませんが、実際には、過去から現在に至るまでの偏った座り方の癖によるダメージが、少しずつ一部の組織に蓄積したことが原因となっているケースが非常に多いのです。

だからこそ、痛くなってから姿勢を直すのではなく、日頃から「座る力」を育んで痛みがでる状態にならないようにしておくことが大切なのです。

座力は、筋力だけでは決まらない

座力という言葉から、腹筋や背筋の強さを想像する人もいるでしょう。

もちろん、身体を支える筋肉も必要です。

しかし、筋肉が強ければ正しく座れるとは限りません。

座力には、いくつもの要素が関係しています。

  • ・座面の高さと硬さ、座面に座る位置
    ・着座姿勢に対する意識
    ・腿裏とお尻の筋肉の長さと硬さ
    ・頭部とアゴの位置
    ・スタンスの広さ   ・骨盤と上体の角度

つまり座力は、筋力だけではなく、身体の感覚、関節の動き、環境、習慣を含めた総合的な能力なのです。

座力は、誰でも育てられる

長年、腰痛に悩む方々の身体を診てきて感じるのは、多くの人が「きほんの座り方」を教わったことがないということです。また、座り方には豊富なバリエーションが存在することも。さらに言えば、「座り直し方」の重要性を知らない方がほとんどです。

本人の努力が足りないわけではありません。

そもそも、座ることを学ぶ機会がなかったのです。

正しい知識を持ち、自分の身体がどこで支えられているかを感じ、環境を整えることで、座り方は変えていくことができます。

座力は、生まれつき決まっているものではありません。

子どもから高齢者まで、何歳からでも育てることができます。

座ることが変われば、日常が変わる

座り方は、とても地味なテーマに見えるかもしれません。

しかし、毎日何時間も繰り返している動作だからこそ、身体への影響は非常に大きいのです。今後、さらにテクノロジーが発展するにつれて、ヒトが椅子に座っている時間が増大していくと予想されます。

「骨盤を立てて骨で座れるようになれば」、仕事中や勉強中の心身の負担が減り、呼吸もしやすくなります。姿勢のリバランスに使われていた余計なエネルギーを、思考や集中に向けられるようになります。

子どもにとっては、学ぶための土台になります。

高齢者にとっては、食事や会話を楽しみ、自立した生活を続けるための力になります。

座力とは、単なる姿勢の問題ではありません。

仕事をする力。
学ぶ力。
食べる力。
人と話す力。                     想像する力。                     癒す力。
そして、自分らしく生活する力。

人生の多くの時間を座って過ごす私たちにとって、座力は日常を支える基礎体力の一つなのです。

この「座力の教科書」では、坐骨、骨盤、背骨、股関節、呼吸、椅子の選び方、腰痛との関係など、「座ること」にまつわる知識を一つずつ紐解いていきます。

目指すのは、座り方に迷ったとき、いつでも調べに来られる「座ることの辞書」です。

まずは今日、椅子に座ったときに、自分の身体がどこで支えられているかを感じてみてください。骨盤と頭部の位置を確認してみてください。

その小さな気づきが、座力を育てる最初の一歩になります。

次回は、「良い姿勢で座ること」と「座力があること」の違いについてお話しします。