最良の時間

　先日、滋賀県安曇川にあるヴィンテージオーディオショップを訪れました。

 この日の翌日、大阪でワークショップの講師を務める予定があったのですが、タイミングよく２つの用事を一度の旅で済ますことができました。

 訪問の目的は、1月末に購入した「究極のスピーカー」に触れて、その音を自分の耳で確かめることでした。30年の歴史が刻まれたお店の空間には、貴重なスピーカーやアンプが陳列されていました。 矢野氏も筋金入りのBeatlesマニアで、ポスターやフィギュアなどが至る所にありました。

　スタジオから視聴用のレコードを10枚厳選して持参したのですが、これがかなり重くて閉口しました。なぜキャリーバッグを持って来なかったのかと後悔。

 あまり時間がなかったので、持参したレコードを矢継ぎ早に視聴しました。これから死ぬまで共に過ごすスピーカーと向き合っている興奮を抑えながら、矢野氏にたくさん質問しました。ヴィンテージオーディオはロマンチックな世界。短時間でしたが充分に満喫できました。

　視聴の後は、地元の鰻屋さんに。東京とは焼き方が異なり、カリッとした食感の立派な鰻重をご馳走になりました。

　オーディオ業界の人たちは、頻繁に重たいスピーカーやアンプを持ち運びんだり、中腰で配線作業をしたりするので腰を痛めやすい。

 矢野さんも御多分に洩れず、長いこと腰痛を患っていたそうです。

 食後に御自宅の前の道路で歩き方の分析から始めました。大変久しぶりに床で施術しました。好きな人の治療をするときは、いつも以上にモチベーションとイマジネーションが高まります。

　当日と翌日、矢野さんから以下のメッセージが届きました。

「本日は滋賀の北部まで来ていただきありがとうございました。 伊藤様のお人柄、お話、腰痛の根本を考察しての治療、オーディオの取組み、音楽への情熱などお会いして分かったことがすごく嬉しいです。 また、お疲れのところ、長時間施術、指導して頂きありがとうございました。 今も体が軽く動きが俊敏に、何より腰がよく回転するようになりました。家内も今日は感動と感謝で、伊藤様にくれぐれもよろしく、と申しておりました」

「こんにちは！ 腰、明らかに良くなった自覚があります。　朝、立ったまま靴下が履けるようになりました。ゴルフの素振りをしても股関節を使って捻る動き、回転が以前より大きく感じます。 何より、歩く時にご指導いただいたことに注意すると歩いてても体が軽く感じます。凄い効果です。 腰、臀部、太腿を時間をかけて施術していただき本当に感謝です。 まさしくゴッドハンド！」

 私の休みは、1ヶ月に半日程度。人からなぜそこまで働くのかとよく聞かれます。

 サッカー選手を引退した直後から2年ほど、人から称賛されることも求められることもない「ただの人」になった期間がありました。 12歳で全国大会を制覇して以来、ずっと注目され続けてきた者としては、あの時期は暗黒だったと言えます。 自分が尊敬する人やお世話になった人たちに、なにも提供したりお返ししたりできなくなったときの切なさは、今だに忘れられません。

 　あの経験がなかったら、今日の自分はないと思います。どこに行っても身一つで仕事ができるのは、本当に幸せ者だと思えます。

　この日まで矢野さんとは電話でしか話したことがありませんでした。それでも、話し方や声で矢野さんの姿や人物像がイメージできていました。実際にお会いしてみると、果たして想像通りの素晴らしい人でした。

 　帰りは琵琶湖から京都の円山公園まで送ってもらいました。矢野さんと過ごした時間は、この先もずっと忘れることはないでしょう。